ischoolオープニングイベントVol.2

レポート

わたしたち一人ひとりの可能性とチャンスを広げ、より豊かに生きるための知恵を身につける学びの場「ischool」。開講を記念して全2回のオープニングイベントを開催し、のべ500人以上が参加しました。

12月17日、生駒市がはじめる「ischool」のオープニングイベントとして、JAXA宇宙飛行士の油井亀美也さんをお招きし、「夢の叶え方」をテーマにしたトークイベントを開催しました。

この日の会場は、たけまるホール。親子連れでいっぱいの客席には、宇宙模様の服を着たり、星形のグッズを手にしたお子さんの姿も目立ちました。憧れの宇宙飛行士に会えるめったにない機会とあって、皆さんの興奮と期待が会場全体を包んでいました。
まずは、生駒市長の挨拶でイベントがスタート。

続いて、奈良先端科学技術大学院大学の学生サークル「NASC」が登場。主に小学生とその保護者を対象にした実験教室や科学教室を行い、科学の楽しさを伝えるために活動している皆さんです。

奈良先端科学技術大学院大学は、生駒市にある最先端の科学の研究機関。iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥さんが、研究を始めた大学としても有名です。先端大で学んだ学生がJAXAに就職したり、情報科学の分野では、JAXAと共同で研究を進めている研究室があるなど、宇宙開発にも関わりがあるそうです。

今回は、メンバーのうち丹羽さん、川戸さん、Juneさんの3人に、宇宙はどんなところで、宇宙にはなにがあるのかなど、油井飛行士のお話を聞くうえで基本になる知識を教えてもらいました。

最初に、宇宙の成り立ちをひも解いていきました。138億年前に「ビックバン」という大爆発で生まれた宇宙。その後、空間を満たしていたガスが固まって最初の星が生まれました。そこから、星の爆発と誕生が繰り返されて、宇宙には星が満ちていったのだそうです。

続いては、クイズの時間でした。「地球上の木の数と天の川銀河の星の数はどちらが多いのでしょう?」「宇宙はうるさい?しずか?」「宇宙は寒い?暑い?」といった2択問題でしたが、宇宙は私たちにとっては知らないことばかり。予想外の正解に、客席からは時折どよめきや歓声が上がるなど、会場はとても盛り上がりました。

最後に、「人と宇宙の関係」を学びました。宇宙飛行には莫大な費用がかかるため、いろんな国が協力し、お金や技術を出し合いながら開発を続けているのだそう。これまで多くの宇宙飛行士が訪れ、研究施設としても有名な国際宇宙ステーション(ISS)も、各国が力を合わせて作ったものです。油井飛行士もこのISSに142日間も滞在し、世界各地から集まったクルーと共に数々のミッションに取り組まれたんです。

こうして会場の皆さんが宇宙に詳しくなったところで、いよいよ、油井飛行士をお迎えする時間になりました。油井飛行士はJAXA宇宙飛行士のトレードマークの一つである「ブルースーツ」を身にまとい、さっそうと登場。

冒頭の挨拶では、「防衛大学校で学んでいたころ、実は奈良に住んでいたことがあるんです。生駒市も通っていたんですよ」と、本市との意外な接点を披露されました。

長野県で生まれ、幼い頃に星空を眺めながら宇宙飛行士に憧れた油井飛行士。一度は航空自衛隊に入隊したものの、42歳で選抜試験にチャレンジし、見事宇宙飛行士の候補生に。そして、45歳でとうとう宇宙飛行の夢を叶えました。

油井飛行士は、2015年にロシアの宇宙船「ソユーズ」に乗って宇宙へ。操縦士を助ける「副操縦士」だったそう。打ち上げから約6時間でISSに到着。油井飛行士の宇宙での主な任務は、ISSに滞在して日本の実験棟「きぼう」でさまざまな実験を行ったり、実験装置を組み立てたりすることでした。

滞在中には、日本製の物資補給機「こうのとり」をロケットアームでつかまえるというミッションもありました。当時、アメリカやロシアの補給機の打ち上げ失敗が続いたことで、ISSの食料や水などの物資や機材が不足。このミッションが失敗したら全員が宇宙から帰らなくてはならないほどの状況だったため、大事な任務でした。

アメリカ人のクルー、筑波宇宙センターの職員、ヒューストンにいた若田宇宙飛行士たちのサポートを得ながら、無事にミッションをやり遂げたときには、その場に携わった人たちから自ずと拍手が沸き起こったそうです。

届いた荷物の中に入っていたフレッシュな野菜や果物は、宇宙にいるととても貴重。それを口にしたときの映像が残っていました。油井飛行士はレモンをかじって「美味しい」と一言。油井飛行士が当時を振り返り、「実はとっても酸っぱかったんです…」とお茶目に打ち明けると、客席からは笑い声があがりました。

油井飛行士は、宇宙からの素晴らしい景色を見たとき、「夢を諦めずに頑張ってきて本当によかった」と心から喜びが溢れてきたそうです。というのも、油井飛行士には一度夢を諦めかけた過去がありました。経済的な理由から大学に進学することができず、防衛大学校で学んでいた頃のことです。

「自衛官になったら宇宙飛行士にはなれないと思い、周りのことがなにも手につかないほど意気消沈したんです。そんな時に先輩が『目の前のことに一つ一つ取り組んでいけば、自分にできることが見つかって、夢にも近づけるはずだよ』と声をかけてくれました。その言葉が支えとなり、ひたむきに頑張るうちにパイロットになる道が開けました。そして、パイロットの経歴が評価をされて、宇宙飛行士になることができたんですよ。」

この経験を踏まえて、油井飛行士から夢を叶えるための3つのアドバイスがありました。
「一つ目は、夢を持つこと。大人も子どもも関係なく、全ての人が死ぬまで夢は持てるものだと思っています。今の自分の能力を踏まえてストッパーをかけてしまわないで、純粋に『自分がなりたいもの』を夢にしてください。その時に『好き』の気持ちを大切にすること。好きなものなら続けることができますよね。好きなものがあるということは、才能の一つなんです。」

「二つ目は、夢に向かって頑張り続けること。迷ったり立ち止まったりしてしまうこともあると思いますが、目の前の課題に一生懸命取り組んでいるうちに道が開けることもあります。」

「三つ目は、夢について周りの人たちと語り合い、サポートし合うこと。困難が立ちはだかって自分ではどうにもならないことでも、周りの人の助けがあれば乗り越えられることができるんです。だから夢が出来たときは、ぜひみんなに話してみてください。そして、身近な人の夢も知って、実現に向けて協力し合うことができたら、みんなで夢を叶えることができますよね。」

質疑応答の時間には、会場から次々と質問が寄せられました。
小学生のお子さんが「将来、宇宙飛行士になりたいのですが、今からでも出来ることはありますか。」とたずねると、

「私はチームワークがとても大切だと思っています。その力を育むために一番役に立ったと思うのは“おうちのお手伝い”。家族はチームですよね。自分にはどんなことができるか、どんな風に動けば他の人が助かるかという視点で、お父さんやお母さんをリーダーに見立てながらお手伝いしてみてください。」
と、にこやかに答えた油井飛行士。説得力のあるアドバイスに、会場の皆さんも大きくうなずいたり拍手をするなど深く納得した様子でした。

油井飛行士は質問に答えるとき、舞台から客席に降りて質問した人に歩み寄り、一人ひとりと目線を合わせて話をされていました。予定していた終了時間を過ぎても丁寧に受け答えを続ける姿からは、真摯で温かい人柄が溢れ出ていました。

最後に、NASCの3人も再び登壇。油井飛行士とともに、会場の皆さんに向けてメッセージがありました。

NASCの川戸さんは、
「僕は小さな頃から科学者になるのが夢でした。油井飛行士の話を聞いて、改めて自分の目標に向かって突き進もうと思いました。会場の皆さんも一緒に、夢を叶えるために頑張りましょう。」
と力強く話しました。

油井飛行士が、
「私が宇宙から地球を見たとき、なんて小さいんだろうと感じたんです。それと同時に、生命あふれるこの地球が広大な宇宙の中の唯一無二の存在だと認識して、この素晴らしい星をみんなで守っていきたいと強く思いました。
環境破壊や戦争など暗いニュースに触れる機会がたくさんありますが、私は地球の未来は絶対に明るくできると信じているんです。なぜなら、宇宙では国籍や背景を越えて各国のクルーが手を取り合って協力できるということを目の当たりにしたからです。今すぐにできないことでも、次の世代に想いをたくしていくことができますよね。」

「私自身の次の夢は月に行くことですが、私がその夢を成し遂げられなかったとしても、子どもたちが想いを引き継いでくれるだろうと思っています。みんなで力を合わせて明るい未来をつくっていきましょう。」
とエールを送ると、客席からは盛大な拍手が。なかなか鳴り止まない拍手の中で、油井飛行士は惜しまれながら退場しました。

イベント後のアンケートには、
「大人でも夢を持っていいんだという油井さんのお話に、自分の人生も大事にする気持ちを思い出させてもらいました。」
「息子がこの日のことを興奮して繰り返し話しています。油井さんのお話に感化されている様子を見て、これが本当の学びなんだと、親としても非常に大きな気づきとなりました。」
「夢の叶え方を教えてもらった娘は、可能性は自分にもたくさんあると知り、ますます家のお手伝いや友達との関わり方にも自信を持って生活できているようです。親から見ても頼もしく、キラキラした姿に嬉しい気持ちをもらいました。」
などと参加者から感想が寄せられました。

大人も子どももだれもが夢を持つことの意義を感じ、未来に向かう前向きな気持ちに満たされた時間。ischoolでは、親子で参加できる講座をたくさん開講していきます。ともに学び、わたしたち一人ひとりの可能性を広げていきましょう。

(写真:磯部良和)

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